ファシリテーションとトレーニングはどう違う? ファシリテーションを知りたいあなたに伝えたい5つの違い
2020年3月23日
ファシリテーションって何だかよくわからない!という方へ
ファシリテーションとトレーニングの5つの違い
ファシリテーションとは、直訳すると「促進する」という意味です、という説明はファシリテーションを知っている人は一度は目にしたことがある説明かと思います。ファシリテーション自体は抽象的な概念でもあるので、いろんなファシリテーターの人がそれぞれの言葉で説明をしているのですが、その本質を掴むためによく、トレーニングやコーチングなどの、他の概念と比較されることがあります。
過去の私もトレーニングやティーチングと比較している記事を読んで、ファシリテーションという概念を掴んでいったので、今回は私自身がファシリテーションとトレーニング*の違いについて説明したいと思います。
*ここではティーチングと同じ意味と捉えてください。厳密に言うとトレーニングは「ファシリテーション型トレーニングもあるためです。
一方通行か双方向的か
まず、トレーニングが学びを一方向に伝える傾向があるのに対し、ファシリテーションの特徴の一つはその場の学びが双方向的に行われることです。例えば、ファシリテーションを学ぶ場があるとイメージしてみてください。
トレーニングの場合
講師が一方的にファシリテーションとはどういうものかを説明する、知識伝達の形式で行われます。
ファシリテーションの場合
進め方の一例ですが、以下のように進みます。
ファシリテーションについてどんなことを知っているか、どんなことに興味を持っているかを付箋に書いてもらい、模造紙に貼ってもらう。 講師はそれを見ながら最低限の知識を伝え、それを聞いた参加者は聞いてみて、日常でどんな風にファシリテーションを取り入れられそうか小グループで話し合ってみる。その後、もっと知りたいことをグループで話してまとめた後に、講師に質問する。
↑こんな感じに、参加者と講師、参加者同士の双方向が話し合い、聞き合うことで学んでいきます。
学びの比重は講師からか、参加者からか
2つ目は、学びの比重は講師側が大きいか、それとも参加者同士が生み出すものが大きいかの違いです。
トレーニングの場合、参加者が学ぶものは講師から渡されるコンテンツの比重が大きくなり、ファシリテーションの場合は講師から渡されるコンテンツよりも、参加者同士のその場のやりとりから生み出されるものが多くなります。
例えば、私は不定期にIAF(The International Association of Facilitators)の定めるファシリテーターのコンピテンシーを学び合うワークショップを行っていますが、開催レポートを見ていただくと、私が直接コンピテンシー教えてはいないことに気づくと思います。
これは、参加者同士が自分たちの現場でコンピテンシーをどんな風に実践しているかを話し合う時間を多くすることで、コンピテンシーを掴んでもらうことを狙いにしている場なので、ファシリテーションの視点が強い場です。
これをトレーニングにするなら、私がコンピテンシーについて教えたり、自分がどのように取り入れているかを説明する時間を長くとる設計にするでしょう。
提供するのは「知識」(コンテンツ)か、「学び方」(プロセス)か
ファシリテーターの役割の一つには「プロセスデザイン」というものがあります。 先ほど 「一方通行か双方向的か」の項目で、ファシリテーションを学ぶ場があったときに、「ファシリテーションについてどんなことを知っているか、どんなことに興味を持っているかを付箋に書いてもらい、模造紙に貼ってもらう」というプロセスを一例で書きました。
このように学ぶプロセスを設計する、つまりその場にいる人たちがどうしたら自分たちで学んでいくことができるかを考えて、その 「プロセスを提供する」という視点が強いのがファシリテーションの考え方です。
一方、学ぶ内容そのもの(コンテンツ)を提供する視点が強いのがトレーニングです。どんな風に資料を作って、どんな風に説明したら聞いている側が分かりやすいかを考え、その内容を伝えるというのがトレーニングの考え方です。
画一的か柔軟的か
トレーニングはコンテンツの提供、ファシリテーションはプロセスの提供という項目とつながりますが、トレーニングの方が画一的で、ファシリテーションの方が柔軟的です。
というのも、どれだけ事前に当日の参加者を想定してプロセスの設計をしたとしても、思ったように進まないことや想定外のこと(人数が変わるとか、物品がなかったとか)も起こったりします。 なので、ファシリテーターは大抵プロセスの設計には余裕を持たせておき、必要に応じて当日その場で変えるのが一般的。
例えば、簡単な例で言うと参加者の様子を見て、休憩のタイミングを変えたり、リフレッシュのために身体を動かすワークを入れたり、グループ分けを変えたり、といったことですね。 それと比較し、トレーニングでは事前に決めておいた内容を当日変えるということは滅多にありません。必ずその内容を伝えきることを大切にします。
長期的か、その場で生み出すか
最後の比較は、学びを得るタイミングが長期的かその場かという違いです。知識を伝達するトレーニングは、知識自体はその場で増えるのですが、その知識をどう活かすかはまた別のタイミングで学ぶことも多いです。
例えば、商品開発をするための場があったとして、トレーニングという視点だと、商品開発のための知識を伝えるという視点が強くなりますが(=活かすタイミングが少し先)、ファシリテーションの視点だと、商品開発とはどういうことをするのかと学んだことをその場でアウトプットしたり、なんなら簡易的なプロトタイプまで作ったりと「その場で掴む」ということに重点があります。
話し合いのファシリテーションなら、その場で目指すゴールに向けて話し合いができるような場づくりや問いかけをする傾向にありますし、問題解決のためのファシリテーションなら解決策が導けるようにサポートします。
ただ、ファシリテーションは短期的ゴールを目指しがちとは言われるものの、私自身は、自分が対話の支援をするファシリテーターだからかあまりそう思っていません。対話のサポートは、その場で話をしたことがベースになって、次の話し合いで生まれる話があるため、あまり短期的なゴールを目指すという視点が他のファシリテーターより感じにくい分野だからかもしれません。
しかし、毎回のワークショップ、対話の場では「こういうゴールを達成しよう」と定めて関わっているため、その場その場のゴールを目指す関わりをするという意味では、トレーニングよりも短期的な視点も持っていると考えています。
大切なのは、概念的に捉えて活かし合うこと
ここまで、ファシリテーションとは?を捉えていただくために、トレーニングと比較してご紹介しました。もちろんこれは、どちらが良い、悪いではなくトレーニングの要素が必要な場面、ファシリテーションの要素が必要な場面を見極めて提供する必要があります。
ここまで読んでいただくと分かると思うのですが、しっかりと分けられない箇所もあるからです。例えば、トレーニングだってその場で活かせるような学びが得られることもあれば、ファシリテーションでも長期的な学びになることだってありますし。
最も活かしやすいのは、下記のように大まかに概念として捉えることだと思います。
COACHING, FACILITATION, AND TRAINING – THE DIFFERENCESという記事から引用させていただきました。
詳細に「これがファシリテーションで、これがトレーニングで…」と理解する必要はなく、何となく大枠の考え方として捉えて、いろんなファシリテーターの方に出会うこと。
その人たちがどんな関わりをしているかを観察してみることで、何となく自分なりにファシリテーションというものが掴めてくるはずです。
オマケ ファシリテーターとしての原則とは
「ファシリテーターって何をする人なのですか?」 という質問は、私がこれまで数えきれないくらい受けた質問の1つです。 聞いてくる人が知りたいであろうことに合わせて答えてはいますが、私自身はIAFの定めるコンピテンシーを実践している人のことをファシリテーターだと認識しています。
現状、英語のものしかないのですが日本語版がダウンロードできるようになりましたらリンクを差し替えたいと思います。(または私が主催するワークショップに来ていただければ日本語でお伝えできます。)
少し細かい内容なので、本格的にファシリテーターになりたい、勉強してみたい方向けですが、眺めてみるとファシリテーターがどんな視点を持って場を作っているのかが分かると思います。
海外のプロファシリテーターが書いた、ファシリテーション型トレーニングについても別記事で書いています。翻訳記事なので多少読みづらいですが、関心がある方は合わせてどうぞ!
また、ファシリテーションが上手くなるにはどうすればいいの?という方はこちらをどうぞ。