新しいものを ”生み出す” 対話のコツ 拡散→探求→収束を意識した話し合いを実践する
2020年3月6日
アイデアが出る会議や話し合いをしたいという方へ
その話し合いは「生み出す」ためか?「共有」のためか?
会議などの話し合いは何人もの時間を一度に費やす必要があるため、できるだけ効果的に進めたいもの。皆さんは、普段の会議を効果的に進めるために、どんなことを意識しているでしょうか。 いくつかコツがあるのですが、1つあげると会議の種類を考慮して話し合いの進め方を決めることです。
その会議が「何かアイデアを出して決める」ためのものなのか、「情報共有をして、現状を理解する」ためのものなのかで進め方は変わるはず。 今回は、前者の話し合いをする機会がある人に向けて、意識することでより効果的な話し合いができるようになるフレームワークをご紹介します。
今回、ご紹介するのはSam Kaner氏によるDiamond of participationという考え方です。元々はArt of Hostingというトレーニングの中でこのフレームワークが紹介されていて知り、そこから私自身も意識的に使うようになりました。(ちなみにArt of Hostingではこのフレームワークを「ブレスパターン」という名称で教えています。)
拡散→探求→集束を意識する
Illustration by 藤田ハルノ text Inc.
Diamond of participationでは、何かを生み出すための話し合いは3つのゾーンを進んでいくことでうまくいくと考えられています。まずはこの3つを知って、実際の自分たちの話し合いがこの流れで行われているかを観察してみてください。
拡散 (Divergence)
話し合いの進め方の1つ目は拡散です。何か疑問が湧いて、それを解決したい時、または「こんなことをしてみたい!」という熱意がある時、そのテーマについてどんどん意見を出してみましょう。この段階ではとにかく、制限をせずにいろんな意見を出すことが大切。
「くだらないかな?」とか「関係ないかな?」という心配で、意見を止めることよりも、数を出すことを重視して話し合います。この段階では、お互いにいろんな案を引き出し合うような関わりをすることで話し合いがスムーズに進みます。
いろんな可能性を開いてみるための時間なので、この段階で人の意見を否定したり、自由に発言できない雰囲気があったりすると、新しいものが生まれる可能性は限りなく低くなってしまいます。
探求 (Groan)
テーマに対して、拡散し切ったなと思ったら、次に探求に進みます。この時間は拡散した時に出たアイデアを様々な角度から吟味したり、模索する時間。英語だとGroan (=呻き) zoneと呼ばれ、文字通り呻くように悩む時間でもあります。
多くの人は、話し合いは結論を急ぎたがる傾向にあり、あれこれ吟味して、「あぁでもない、こうでもない」「いや、こっちもありなんじゃないか」「やっぱりこっちはどうかな」などモヤモヤ行ったりきたりして決まらない時間は居心地が悪く感じるもの。
ただし、これまでに無いものを生み出すための話し合いがしたいなら、この探求ゾーンの時間がとても大切。収束を急がず、ある程度このゾーンに止まって話し合いができるかどうかが、創発を生む鍵と言っても過言ではありません。
決めないことに留まっていろんな可能性を吟味していると、不思議と「こっちかな」という感覚が、話し合いしている人たちの間に湧いてきます。
収束 (Convergence)
探求の時間を得て、なんとなく方向性が見えてきた感覚が出てきたら、話し合いは収束に向かいます。この時間では決めていくことを前提に、何を基準に決めるのかや、どのようにするのかと言った具体的な事柄を話しあっていきます。
ただし、拡散を十分にしていなかった場合、なんとなく「話きった感触」が持てなかったり、拡散した意見を十分に吟味、探求していなかった場合、「決めるための軸や決定打」が見つけられず、錯綜したりしてしまいます。
収束の話し合いが自然とうまく進むようなら、ここまでの拡散→探求がある程度うまく進められたことを意味するのです。また、収束は決め方に合意して進めることがポイントの1つです。「なかなかうまく決まらないな」と感じるようなら、一旦「どのように決めるのか」を話しあってみてください。
以上が、拡散→探求→収束というフレームワークです。これは実際に話し合いで体験してみないことには、言葉で説明しただけでは納得感がわかないかもしれません。まずは、自分たちの話し合いをこのフレームワークで見てみる(例えば、「自由に意見を出し合えるような拡散の時間になっているかな?」とか) ことをお勧めします。
ちなみに繰り返しになりますが、新しいものを “生み出す” 話し合いをするときの視点なので、「既に結論が決まっている、見えている」話し合いでは役に立ちません。 話すテーマについての解が全く見えていないことを、複数人で話し合うときにぜひ意識してみてください。
ファシリテーションを学んでいる方へ
フレームワークを活かすには?
フレームワークは知っているだけでは、「話し合いを分析するとそういう枠組みで捉えることができるのね」くらいで、何にもなりません。大切なことは実際の話し合いに活かすこと。
例えば、話し合いの最中に「もう拡散って十分だと思う?」とか「今ってもう収束に入ってると思う? まだ探求にいると思う?」 という声をかけあって進めてみるなどです。(実際に、私も仲間内の話し合いではこういう声かけをします。)
話し合いでは、無意識にズレが起きますが、こういうフレームワークという枠組みを使うことで、そのズレを大きくせず進めることが可能になります。 また、話し合いの参加者がこのフレームワークを知らなかったとしても、自分なりに今どの場所にいるかを見極めて、その場を進めやすくする関わりを意識してみましょう。
例えば、拡散だなと感じるなら、アイデアが広がりやすくなるような問いかけをする、自分もどんどん意見を言ってみる。探求だなと感じるなら、今話していることを別の角度から見るとどんな風になるか考えてみる、あえて違った視点を投げかけてみる、皆が考えているときに無理に質問せず、ゆっくり待つ。収束だと思うなら、何を優先に決めるかを問いかけてみる、最終的にこっちが良いと思うという意見を表明する、というようなことが考えられます。
私自身も、研修やワークショップでこのフレームワーク自体を紹介したり、「それぞれの領域を進めやすくするためにどんな関わりができたら良いと思う?」というような問いかけで話し合いをする時間を設けたりと、実際によく使っています。
(オマケ) ファシリテーターとしての成長に活かす
普段の話し合いで、このフレームワークを意識してみることで、自分がどこが得意、どこが苦手な人なのかが分かってくると思います。例えば、拡散のための問いかけはたくさん思いつくけれど、話し合いを収束させていくための問いかけは思いつきづらいという強み、弱みだったり、単純に探求は不明確な時間だから好きじゃないけれど、収束は好きというような好みであったり。(好みは、その領域の扱いやすさにつながります)
また、ワークショップを開いたりする人にとっては「拡散のためのワーク」はよく知っているけれど、「収束のためのワーク」はできる数が少ない、「探求の時間に問いかける力が弱い」など自分の傾向を知ってみてください。
傾向を知ることで、自分が苦手とするところを強みとするタイプのファシリテーターと組んだり、意識的に苦手なワークを学んでみたり、「こんなシーンではどうしていますか?」と他のファシリテーターに質問したりと自覚的に自分の成長を育んでいくことが可能になるからです。
話し合いをサポートする機会があるファシリテーターの方、また自分たちで「おっ!」というアイデアを生む話し合いをしてみたい方に、今回のフレームワークがお役に立ちましたら嬉しいです。
Art of Hostingで伝えられるフレームワークについては他でも記事を書いています。関心がある方は合わせてご覧ください。